総務長が育休1カ月、トップ不在が育てる職場

積水ハウス 埼玉南シャーメゾン支店  大村 孝史さん

男性社員が1カ月以上の育児休業を完全取得する「イクメン休業」制度を、会社一丸となって推進する積水ハウス。埼玉南シャーメゾン支店で総務部門を取り仕切る総務長の大村孝史さん(39)は、2018年9月の制度導入からほどなく、まるまる1カ月間の育休を取得した。部門トップの長期不在に際し、事業本部、支店、総務課員が連携して綿密に準備。総務特有の多岐にわたる業務を滞りなく運営し、支店内、社内で男性社員の休業取得の機運を高める結果となった。休み中は地域とも積極的にかかわり、男女共同参画に理解がある住宅メーカーとの評価も獲得。業務効率化を通じて「残業が当たり前」との意識を払拭する働き方改革にもつながっている。

「立場的にも、率先して取らなければいけない。そんなミッションがありました」。大村さんがイクメン休業を取得したのは、18年11月から12月にかけての連続1カ月間。第2子の長男が1歳1~2カ月の期間だった。

積水ハウスが「イクメン休業」と呼ばれる特別育児休業制度を立ち上げたのは18年9月。仲井嘉浩社長の旗振りで、3歳までの子どもを持つ男性社員は原則全員、1カ月にわたる育児休業を取得する。男性社員が積極的に育児にかかわる機会を後押しし、ダイバーシティを推進するのが狙いだ。制度上は4回まで分割取得ができるが、大村さんは途中に3日間の出勤を挟む以外は事実上の連続休業を決断。支店のさまざまな業務を担う総務部門のトップとしては挑戦的な試みだった。

制度の開始を受けて社内で育休取得の対象者リストが公表されたのは18年秋。そこには長男が生後10~11カ月に差し掛かっていた大村さんの名もあった。ほどなく支店が属する東日本建築事業本部の聞き取りが始まり、本社のダイバーシティ推進部からは取得計画書を提出するよう求められた。計画書とは、取得予定日、連続・分割の取得パターン、引き継ぐ業務とその内容、フォロー担当者などを具体的に記入し、パートナーが署名した上で会社に提出するシートだ。「家族を幸せに」「ESG経営のリーディングカンパニー」「社内のコミュニケーションを円滑化する」といったイクメン休業の目的を踏まえて各自がまとめる。これを書き込む段になって、大村さんは事業本部の伊藤勝敏総務部長から「休業は1カ月まとめて取り、組織のガバナンス強化のためにも、会社のロールモデルになってほしい」と電話を受けた。

ダイバーシティを担当する伊藤みどり執行役員からも電話が入った。「社会的にも関心が高まっているこのイクメン休業を、社員とその家族が幸せになるための時間として有意義に過ごしてほしい」。2本の電話でイクメン休業に対する大村さんの意識が変わっていった。

正直なところ、管理職である総務長には1カ月連続の休みはさすがに縁がないだろうと受け止めていた。「1週間ずつの分割取得が無難だと思っていたのですが、まとめて取得するよう言われて1日悩みました」。1カ月連続となると心構えも違う。総務課の部下は女性3人。3人とも子育て中でうち2人は時短勤務だ。3人とも仕事ぶりはしっかりしているとはいえ、課の業務分担は専任制をとっている。どうすれば1カ月休めるのか。大村さんは模索を始めた。

このころ、ガバナンスの強化は支店の検討課題だった。「私やほかの誰かが病気などでいなくなったときでも回るような、統制が取れるような組織をつくらなければいけない」。北脇和仁支店長とは常々そんな話をしていた。自分が1カ月不在にする今回はうってつけのチャンスではないかーー。そこで課員に1カ月の休業取得を告げたところ、3人の返事は「いいじゃないですか! ぜひ家族のために取得してください!」。それならがんばろうか、と背中を押される思いがした。

育休の取得は2カ月後からに設定した。その間、総務課でナンバー2の田中華織主任に自身の業務を教え、総務長の基本的な仕事を代行できるよう指導していく。まずは課員を集めて業務の洗い出しに着手。気が付けば多様な仕事が山積するのは総務の宿命だ。そこで各人が担っている業務をリスト化し、不要と思われる仕事、惰性で続けてきた仕事をふるいにかける。その上で残った業務を課員に割り振っていく。不都合な点は2カ月のうちに見直すことにした。

設計課、建築課など支店の他部署に任せた方がいい仕事も見極めた。トップが休みに入る組織として、仕事量はできるだけスリムにしておくことが必要、との考えからだ。人員が「1減」になる以上、ほかの課員の仕事が単純に増えるのは避けたい。業務を見直し、より活発なコミュニケーションを試みた結果、課内の風通しと業務効率は格段に良くなった。

事業本部からは早々に全面支援の意思表示があった。各支店の総務長が集まる会議でも「どういうフォローが必要ですか?」との働きかけがあった。大村さんは当初、事業本部内の総務長たちに「これを助けて」「あれを手伝って」と伝えるつもりでいた。そこで依頼内容を課員3人に相談したところ、回答は「自分たちだけでできる限りの事をやってみます」というものだった。

総務長として心がけたのは、支店内のコミュニケーションを活性化することだった。各課の壁を取り払うというより、5役と呼ばれる支店の幹部レベル(総務、営業、設計、管理、建築の各部門トップ)で連携を取りやすいようにすること。自分が休んでいる時にはそれが課員の助けになると考えた。そのうえで、5役はもちろん、支店長や次長に協力を依頼し、業務上、一般課員では判断できない仕事については判断を委ねる段取りをつけた。

万全を期して休業に入ったのは18年11月10日。起床から寝かしつけまで、6歳の長女、1歳の息子とつきあう日々が始まった。予防接種や通院は1日がかり。荷物もある。子どもは泣く。男性1人で子どもを連れて来ている人は、待合室ではほかにいなかった。今日はパパと一緒なんだね、と話しかけられるたび「育児休業を1カ月取ってるんです」と積水ハウスの名も出して説明した。「とてもいいことですね」「いい会社ですね」。否定的な反応はほぼなかった。「すごくプラスだと思い、いろいろな人と話しました」

子育てで過ごす1日はあっという間だった。朝、準備を終えると児童館や公園に出かける。縄跳びを楽しんだり、芝生で歩く練習をしたり。動物園に行くこともある。午後4時には帰宅して風呂に入れる。5時半から夕食を食べさせ、6時半には寝かしつけ。翌朝は5時半に起きる。生活時間帯は仕事をしている時より1時間以上前倒しに。仕事に復帰した今でも「午後6時のチャイムが鳴ると、家にいる子どもたちはご飯を食べてもうすぐ寝るのかなと思います。時間の意識はすごく強まりましたね」。

準備万端で臨んだとはいえ、休業中、まったく不安を感じないわけではなかった。最たるは自分あての業務メールだ。イクメン休業中であることを全社が知っているわけではない。期限付きで報告を求めるメールなどは当然スルーできず、誰かに「お願い」するしかない。基本的には総務長の仕事を任せた田中主任に転送するが、当初はそのたびに「申し訳ない気分」に陥っていた。

そんな気持ちが切り替わったのは2週間余り後、3日間だけ出勤したときのことだ。どうしても自分にしかできない業務を処理するため、事前に決めた日程どおりだったが、「この経験が大きくて。それまでは業務が止まっていないかな、という不安もあったのですが、予想外に書類はたまっていなかった」。この出勤期間、自身の不安、課員が抱いている不安について上司も交えて話し、すり合わせができた。課員が3人とも育休を経験済みで、理解があり、文句も言わず的確に業務を処理してくれたことも大きかった。結果的に「業務が滞る」との不安は解消され、後半はより充実した育休になった。

育休期間中は、これまでなかなか縁遠かった地域コミュニティーにも関わりができた。地域と積極的に関わる、いわゆる「イキメン」だ。たとえば地域のイベントを自治体のホームページで探し、公民館や児童館でやっているイベントに子連れで参加。朝から子供2人と並び、足形や手形を作るなどして楽しんだ。娘と一緒に10キロのスリーデーマーチウォークに仲間と参加したり、2キロの親子マラソンにも出場し、手をつないでゴールした。「仕事だけやっていると地域とのつながりが取れないので、意識的に飛び込んだ」


家族でキャンプに出かけたことも

東京ディズニーリゾートや、子どもの職業体験型テーマパーク「キッザニア」に家族旅行もした。ディズニーで並んでいるとき、隣の女性に声をかけられた。平日に子連れ、怪しまれているなと思ったので、「育児休業なんです」と先回りすると「すごいですね」。「これからの時代は男性も育児参加しないといけないと思う。そういうことを会社が推奨してくれたので来ていますーー」。さり気なく「積水ハウスです」と会社のアピールも加える。自身は総務だが、営業ならこの経験は間違いなくプラスだろう。予防接種に付き添った体験談なども、営業の現場で格好の話題になるに違いない。

復帰後の手応えが大きかったのは、やはり課員の成長ぶりだった。各自が考えて、自主的に動き、情報を共有する。全社に発信するメールも、文章づくりからから大村さんに相談していた休業前とは違い、「この内容で発信していいですか」と言ってくるようになった。部署を越えた相談ごとも解決できるようになり、他支店ともコミュニケーションが取れるようになってきた。本当に成長してくれた、と思っている。「会社のガバナンスや、会社を良くするための側面からすれば、1カ月連続で休業を取ったのはよかったと思います。1週間ごとの細切れ取得では、やはり部下の成長は限られるはずです。あと3日で帰ってくる、それではやらないですよね。あと3日待っていればいいや、って」。自分が1カ月いなかったからこそ課員もがんばれた。

残業についての自身の意識も変わった。子供がもう寝ようとしてる午後6時に、自分はまだまだ仕事というのは......と、家族の生活時間帯に合わせて考える意識が生まれた。今までは時計が6時を打ってもさほど気にしていなかった。今はそのチャイムが鳴る前に終わらせようと決めているし、それを過ぎたら「遅いな」という感覚。いつも帰宅できるわけではないが、6時を目指して仕事の効率化はできるようになってきた。

大村さんはじめ男性社員のイクメン休業取得を一貫してバックアップしてきた北脇支店長は「トップの業務効率が高いと、そのチームの業務効率も高くなる。そのチームは残業が少ない」と指摘する。「反対に、トップの時間管理が緩いチームは生産性が良くない」

社内には育児休業中の社員や、フルタイム勤務ではない時短社員も多い。大村さんは朝の準備や「お迎え」の大変さ、そこに配慮するのがいかに大切か身をもって理解した。自分は1カ月だったが、1年、2年と育休を取る人がどれだけ不安かということも理解できる。育児には逃げ場がない。子どもが風邪をひいたら「病院に行ってあげて。家族を大事にして」と素直に言えるようになったし、否定的な反応をする社員がいたらその場で指摘できる。そんな上司でいることが使命だと自任している。周囲の理解と協力があって経験させてもらったことを大事にし、周囲に働きかけていくつもりだ。