動き出す老後マネー「貯蓄から投資」若者動く

「自分で資産をつくり上げる力を付けることが大切だ」。都内の大学に通う田中挙斗(23)は9月から積み立て型の少額投資非課税制度(つみたてNISA)を始めた。

ニュースで目にするのは国の財政悪化や、老後資金が2000万円不足するとした金融庁審議会の報告書など、将来の心配になるものばかり。「年金はあまりあてにできない」。アルバイト代などから毎月2万円を外国株で運用する投資信託などで積み立てることにした。「慣れたら積立額を増やしたい」という。

「老後の資金不足」とした報告書は、テレビのワイドショーなどがこぞって取り上げ国民の関心事に浮上した。内閣府が8月末に公表した「国民生活に関する世論調査」によると、現在の資産や貯蓄について「不満」「やや不満」との回答比率は計54.3%と前年より2.1ポイント増えた。増加は5年ぶりだ。

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同じ時期に公表された公的年金財政検証によると日本経済のマイナス成長が続き、女性などの労働参加も進まなければ2052年度には国民年金(基礎年金)の積立金が枯渇する。いまの20代、30代にとって足りないのは「2000万円」どころの話ではない。

自分で老後資金をつくるしかないと、覚悟を決めた若者や女性が資産運用に乗り出した。まず向かうのはスマートフォンで運用に関わる操作ができる「スマホ金融」だ。

アプリで個人型確定拠出年金(イデコ)の管理ができるauアセットマネジメント(東京・千代田)では7月の申込者に占める20代の比率が16%と、6月の11%から上昇。8月も同様な傾向だ。同社は初心者に的を絞っており、今夏は年金について解説を配信。ニーズを取り込んだ。

主にネット経由で積み立て投資を扱うセゾン投信(東京・豊島)では、6月以降、新規申込者のうち、女性が初めて過半を占めている。「共働きが増えて自分のための投資を始めた女性が増えた」(マーケティング部長の津田由理子)という。

買い物などで集めたポイントを生かした投資も広がる。都内の会社員、藤原悠以(34)はこれまで出勤前や昼休みに株式の短期売買を繰り返す投資スタイルだった。今年は「楽天スーパーポイント」を使う投信の積み立てにも取り組んでいる。「核になる資産は長期投資で育てる」

「投資を新たに始める人はネットが中心で、店舗には行かない」というのはこの10年近くの金融業界の常識。だが、この逆の動きも出てきた。

株、保険や住宅ローンなどの相談にまとめて応じる東海東京証券の新型店舗「マニーク」。温かい彩りの内装などが特徴で、名古屋市や都内の来店客は4、5月の平均に比べ4割増えた。7月は7割増、8月は2.5倍と急増。最も多いのは30代だ。「たまたま店の前を通りかかって相談に来る人も多い」。従来の金融機関の店には敷居の高さを感じるが、マネーについてゼロから相談したいという需要がある。

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「これまでにはなかったことだ」(ある証券大手の首脳)。1987年にNTTが上場して以来、政府も業界も30年以上にわたって「貯蓄から投資」を呼びかけてきたが、若者や女性が自ら金融機関の門戸をたたくのは「初めての現象」だ。

日本では家計の金融資産約1800兆円のうち、世帯主が60代以上の家が6割以上を保有する。20~40代は2割程度の400兆円弱とみられる。このうち1割でも投資に向かえば大きなうねりが起きる。

8月24日、東京・新宿で全国から集まった子どもたち42人がカードゲームで戦った。「トレーディング、スタート!」。NPO法人の金融知力普及協会(東京・中央)が主催する「エコノミカ」の大会で、経済の動きと個人資産の増減を結びつけて学べる。今年から金融庁が後援した。日興アセットマネジメントでは7月下旬に開いた親子投資教室の申し込みが18年より2割増えた。運用の大切さに気づいた親たちが背中を押している。

2000万円問題は「眠れる個人」を投資に突き動かす起爆剤になったようだ。

(敬称略)