タニタ本社、1割が個人事業主 「就社」から「就職」

企業と働き手の関係が新しいステージに入ってきた。健康機器大手のタニタ(東京・板橋)は社員との雇用契約を切り替え、業務委託で仕事を依頼する制度を導入。今は本社所属の社員の1割が個人事業主だ。個人事業主を含む国内のフリーランス人口は1000万人を超えた。企業は業務ごとに適切な人材と契約し、個人は柔軟な働き方ができる。課題も残るが、雇用関係を軸にした働き方が変わる可能性がある。

タニタ本社でアプリ開発に携わる武藤有悟さん(39)は個人事業主として週5日、1日8時間タニタで働く。実は2年前、同社を退職し、今は残業すれば追加で報酬を請求する仕組みに切り替えた。今年は他社のイベント関連の仕事もし、仕事の幅を広げている。

タニタは2017年から新制度を導入し、希望する社員は雇用契約をやめ、個人事業主への業務委託の形で再契約する。「正社員として入ったのにもったいない」「体のいいコストカットだ」――。武藤さんは家族に反対されたが「技術の進歩が著しいアプリ分野の技術者として成長したい」と決断した。1923年創業の同社の本社には約230人の社員がおり、個人事業主は約20人いる。

フリーランス

企業との雇用契約がなくなり、雇われている人を守る労働法の適用外のため、契約打ち切りの不安はつきまとう。個人が自ら保険や年金などの手続きをしなくてはならず、手間もかかる。半面、定年や転勤はない。仕事を選び、キャリアを主体的に形成できる。

企業は偽装請負などの疑いをかけられかねないが、社員はより真剣に仕事に向き合い効率を高められるという。「対象は希望者だけ。社員の自立心を高め、生産性を上げて働いてもらう」とタニタの二瓶琢史社長補佐は説明する。二瓶さんも総務部長から業務委託に切り替えた。

タニタが18年度、個人事業主に契約を切り替えた元社員に対し支払った金額は前年度比1.5%増えた。社員の時は業務の一部として扱っていた他部署の仕事を上乗せで支払ったり、費用の計上をより明確にするようになった。会社が負担していた社会保障費を社員時代と同じ額で現金で受け取れる制度もある。

一方、個人の手取り額は平均で23%増えた。タニタ以外からの報酬も一つの要因だ。

フリーランス

近年は個人事業主フリーランス、隙間時間に働く「ギグワーカー」が増えている。クラウドソーシング大手のランサーズ(東京・渋谷)によると、兼業・副業を含む広義のフリーランス人口は18年に1119万人と15年比で23%増えた。同社は「業務委託ベースで複数の仕事を掛け持つパラレルワーカーが増えている」とみる。

不動産情報サイト大手のLIFULLは、7月初旬に始めたシェアオフィスを運営する新規事業の販売促進活動チームのほとんどをフリーランスで構成した。約15人が業務委託契約で資料作成や映像制作などを担う。

人材サービスのみらいワークスでは会社で働く約90人のうち、2割がフリーランスだ。その中にはプロジェクトリーダーを務める人もいる。「その時々で必要な人材を連れてくればよい」と岡本祥治社長は語る。

ランサーズが7月に実施した調査では、外部人材(フリーランス)の活用の目的で最も多かったのが「新しい知見の確保」(32%)だ。

スタートアップ支援のMistletoe(ミスルトウ、東京・千代田)は18年7月以降、正社員だけでなく都内にあった本社オフィスもなくした。「セレンディピティー(思いもよらない出会い・発見)を重視している。従来型の固まった雇用体制では新しいことは生まれない」(同社)。約30人の正社員との契約は個人事業主との業務委託に切り替えた。

個人事業主への切り替えは柔軟な働き方の実現が期待される半面、課題も多い。個人は正社員に比べ信用力が低くみられるほか、企業と対等に交渉できる人材も限られる。

プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会の平田麻莉代表理事は「こうした(企業と対等に渡り合う)働き方ができるのは全体の20%程度が現実的ではないか」と話す。同協会などの最近の調査では、芸能・出版関連のフリーランスの約6割がパワハラ被害にあっている事実も明らかになった。

雇用関係によらない働き方をする人を保護する制度づくりは急務だ。米カリフォルニア州ではライドシェアサービスの運転手らを従業員として扱うよう企業に義務付ける新法が9月に成立した。

副業の広がりもあり、個人が会社に依存する状況は転換点にある。会社の形も含めて、大きく制度などを変えていく必要がありそうだ。

個人守る制度 構築急務

個人事業主への切り替えは柔軟な働き方の実現が期待される半面、課題も多い。個人は正社員に比べ信用力が低くみられるほか、企業と対等に交渉できる人材も限られる。

プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会の平田麻莉代表理事は「こうした(企業と対等に渡り合う)働き方ができるのは全体の20%程度が現実的ではないか」と話す。同協会などの最近の調査では、芸能・出版関連のフリーランスの約6割がパワハラ被害にあっている事実も明らかになった。

雇用関係によらない働き方をする人を保護する制度づくりは急務だ。米カリフォルニア州ではライドシェアサービスの運転手らを従業員として扱うよう企業に義務付ける新法が9月に成立した。副業の広がりもあり、個人が会社に依存する状況は転換点にある。会社の形も含め制度などを変えていく必要がありそうだ。

井上孝之氏、松冨千紘氏)